臨床心理士のミナコです。ご覧いただきありがとうございます。
今回は、パニック障害の症状ゆえにひきこもりがちになっていた主婦の方の症状の軽減とご本人とご家族の精神的ケアおよびQOL(生活の質)向上のために、ご本人のオンライン・カウンセリングとご家族のメンタルサポートをさせていただいた事例をご紹介します。
ミチコさんは40代女性。娘さんが生まれてからは専業主婦です。以前はパートにも出ていました。
ガーデニングや手芸が得意で明るく穏やかな性格のミチコさん。
彼女の異変に気付いたのは中学生になった娘さんでした。
娘さんが「お出かけをしない」お母さんに気づく
娘さんいわく、
「休みの日はお父さんとお母さんと一緒に買い物や遊びに行っていたのに、最近はお父さんと私で出かけることばかり」
「お母さんはお父さんと私が出かけている間どうしているんだろう?」
そういえば、お母さんのミチコさんはガーデニングも手芸も気が乗らなくなったようでした。
毎日、買い物やお出かけもせず、元気がない様子でソファから窓の外を眺めるミチコさん。
娘さんはお父さんに相談。お父さん(ミチコさんのご主人)も「妻は更年期とか体調がすぐれないとかだけではなさそうだ」と思い始めていたとのことでした。
病院に行くと更年期でも疲れでもなく「パニック障害」
ミチコさんは「なんでもない。疲れが取れないだけ」とおっしゃっていましたが、ご主人と一緒に病院に行ってみると診断は「パニック障害」。
問診の際にミチコさんは、
「外出するとときどきひどい不安感と動悸がする」
「症状がつらいので外出を控えている」
とこたえたそうです。
お医者さんからそれはパニック障害の症状だと言われました。
ミチコさんはパニック障害だと知らずにひとりで症状に悩み、外出を回避していたのです。
鑑別診断(精神疾患か判断するための身体的な検査)でも問題はなく、パニック障害様症状は精神的なものとわかりました。
ミチコさんはパニック症状を軽減するための生活相談と、並行して心の中のことを洞察するオンライン・セラピーを受けてくださることになりました。
娘さんは不登校の責任を感じ…
ミチコさんのパニック症状は少しずつ良くなっていきました。
パニック障害のことを生活相談の中で学び、した方が良いこととそうでないことを試行していった成果が出てきました。

精神疾患は「病識(自分が病気であるという認識)」を適切に持って治療を進めることが大切です。
パニック障害においても同様です🌼
すると今度は、娘さんがしょんぼりし始めてしまいました。
「私が不登校になったせいでお母さんに負担をかけてしまった」
「お母さんがパニック障害になったのは私のせいだ…」
娘さんは昨年、友達とのトラブルや先生への不信感から不登校になり暫くの間学校に行ったり行かなかったりの日々でした。
娘さんなりにお母さんの病気を理解しようとネットでパニック障害を調べた結果、ストレスや家族の無理解がよくないといった記事を読み、責任を感じてしまったようでした。
ミチコさんもお父さんも「そんなことないよ」と慌ててフォローしましたが、娘さんは思春期でなかなか親のいうことを素直に聞かないところもありました。
専門家の力を借りた方が娘さんにとっても納得できるだろうと感じられたそうです。
そこで、ミチコさんのセラピーとは別に、家族支援として、ファミリー・セラピーとインフォームド・セラピーを始めました。
インフォームド・セラピーでパニック障害について適切な知識をつける
インフォームド・セラピー(十分な情報を得た上でのセラピー)は、ご家族で一緒にパニック障害について学びます。

ネットの情報は真偽が不明確なものも少なくありません。
お医者さんが使っている診断マニュアルや学術論文などを通して、可能な限り適切な知識を得ていただいています!
中学生の娘さんにもわかりやすいように、診断マニュアルや学術論文の言葉を噛み砕いてホワイトボードにも書き記しつつ説明しました。
娘さんは「自分がストレスをかけたせいだ」という感覚をすべて消し去ることはできないけれども「パニック障害の誘因は複合的なものだ」と認識してもらえたようでした。
家族セラピーでご家族の負担を減らす
一方で、娘さんにさらに知っていただきたいことがありました。
それは、「今や娘さんこそが大きなストレスを感じている」ということでした。
ミチコさんも
「本当にそうです。パニック障害にかかったのは私のはずなのに娘の方が悩んでいます」
と困り顔をなさいます。
ご主人も同様でした。

みんな困った顔をしているね
みんなで笑顔になりたいね!
家族みんなでニッコリ元気になるためには、家族みんなの負担やストレスを減らすことが大切です。
娘さんもおっしゃいます。
「実は、最近学校に行くとまた具合がわるくなってしまっていました。
また不登校になるんじゃないかと不安も強くなって、どうしよう…と思っていました」
「共倒れ」「一家総崩れ」を避けるための家族支援
二者関係において、支え合っているつもりがお互いに負担が大きいと共倒れになってしまうこともあります。
同じことがご家族で起こると、一家総崩れにならないとも限りません。
みんなでお母さんを支えるつもりが、自分のことを二の次にしすぎると今度は自分が弱ってしまい、自分も倒れ、残ったひとりにさらに負担が…という悪循環。
このような悪循環を回避する支援策が必要です。
家族セラピーは「共倒れ」「一家総崩れ」が起こらないように家族全員のQOL(生活の質)を高める相談タイムになっています。
家族セラピーでいろんな案が出され、ミチコさんは娘さんとガーデニングや手芸を一緒にすることにしました。
ガーデニングの土は大地の恵みを、ふわっとした布地は愛着を感じさせてくれます。
「お互いにとって癒しになっています」と二人とも語ります。
休日にはお父さんも一緒にガーデニングしているとのこと。
これからもご家族みんなで支え合う関係を目指していかれることでしょう。
image photo:Lucija RasonjaによるPixabayからの画像